「黒面の狐」 三津田信三 著

あだな ≪くれきん≫

刀城言耶シリーズの「厭魅の如き憑くもの」などと違ってホラー色の薄い、社会派ミステリーになっています。 前半は第二次世界大戦の戦中、戦後の日本や周辺諸国の社会情勢について歴史のお勉強です。 近衛内閣から東条内閣へ替わり軍国主義が満洲国の建国理念「五族協和」と「王道楽土」を踏みつぶして行く有様がリアルに描かれています。 満洲国の建国大学の学生であった物理波矢多(もとろいはやた)が夢破れ、自分探しの旅に出て九州の炭鉱で働き始めるところから、ホラー色が出てきます。 戦中、戦後の歴史に興味のない方には読み始めが大変しんどいと思いますが、当時日本で行われていた、炭鉱での過酷な労働や朝鮮人(当時はまだ韓国も北朝鮮も存在していません。差別用語ではありません)への非道な扱いを知る良い機会だと思います。 中盤から後半にかけて密室殺人が起こり、ホラーが少し絡み、犯人捜しと話が進んで行きます。 結末までに真犯人が二転三転して読者をじらす三津田節は顕在です。

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